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誰も知らないバックホーム [おもいでがたり]

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誰にでもあるだろうけれど、
それでもなお自分だけにしか存在しない、記憶。

 
町内会の野球大会。
いやソフトボール大会だったかもしれない。
私はたぶん、小学3年生か4年生か。
学区の、町別対抗の野球大会のことだ。

私は戦力としては特に期待されないポジションに居た。
守備はレフトで、たしか打順は7番だったか8番だったか。
実際練習の時にも球はなかなかバットに当たらなかった。
その頃はよく父親にバッティングセンターに連れていってもらっていたけれど、
でも時速90kmの球はなかなかバットに当たってくれなかった。
体育の成績は特に悪くはなかったものの、球技となるとからきし駄目。
今思えばその頃から球技はニガテだったのだろう。

そうして迎えた町別対抗の学区の野球大会。
今でもなお、その時の陽射しも砂の匂いも手に取るように思い出せる瞬間がある。
 
最終回。
たぶん1塁か2塁にランナーが居た。
リードはおらがチーム。この回を抑えれば我がチームの勝利。
私はだだっぴろい小学校の運動場の、持て余すほど広いレフトで身を屈めていた。
  
そして、打球は飛んで来た。レフト前ヒットだ。
相手チームの走者は懸命にホームを目指す。
私は必死で打球を追いかけてミットに納めるとホームを見やる。
ランナーは3塁を回った。キャッチャーが何かを叫んでいる。
私には他の状況は全く見えていない。
打った打者がどこまで走ったかとか中継が居るのかとか、
一切に視野に入らないまま、
ただただ全身全力でキャッチャーめがけてボールを投げた。

今でもその光景を思い出す。

私の放った球は、放物線を描いてホームを目指す走者の頭上を超え、
そしてストライクでキャッチャーのミットに吸い込まれた……。
 
 
まかりまちがっても体育会系とは言えない私にもある、
数少ないスポーツの中のふたつの記憶。
もうひとつは小学6年生のバスケットボール部の練習試合だ。

今でもそうだが我が市内の小学校に男子バスケットボール部は無い。
けれど私が小学生5、6年生の時だけ、一代限りの男子バスケ部が存在した。
担任の先生が女子バスケ部の顧問をしていた関係で、
自分のクラスであまりにもヤンチャの度が過ぎる教え子を、
部活の練習の中で鍛え直したいと思ったのだろう。
私は自分で言うのも何だがヤンチャな気質はみじんもなく、
当時は絵に描いたような優等生で児童会の会長をしていた。
私は先生が練習に来られないときのためのお目付役を命ぜられていたのだった。
  
そんな当時の、とある練習試合にて。
当然のことながら市内のどの小学校にも男子バスケ部はなかったから、
たまに相手校がOKしてくれた時だけ、女子バスケ部相手の試合になる。
まあ大会もへったくれも関係のないエキシビジョンマッチのようなものだ。

でも私たち一代限りの男子バスケ部はたまにしか出来ない試合をすごく楽しみにしていた。
そしてとある市内でも強豪と言われる小学校相手の試合の時。

試合終盤に差し掛かり、我がチームは劣勢。
ヒトケタ差だったとは思うけれど負けていた。残り時間も1、2分。
背番号7番の私は相手の外れたシュートに飛びつくと、すぐに振り返って走り出した。

私は集中しすぎると周囲に目が行かなくなるのかもしれない。
今なら客観的にそう考えることは出来る。
けれど小学生はそんなこと考えちゃいられない。
私はおもむろにドリブルを始めると、視線の先には我がゴールしか見えなかった。
 
”ゴール to ゴール” だ。
 
そのとき、私はコートの端から端まで走り切った。
ぎこちないジャンプシュートは、奇跡のようにゴールネットを通り抜けて落ちた……。
 
  
 
 
 
 
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コドモが居ることで、
それまででは考えられなかった経験というものに、よく出会う。
お盆休みのこの日、私たちはとある中学校に居た。

子供対象のテニススクールの会場が中学校の体育館だったからだ。

3、40人は居ると思われる子供たちが、
コーチの教えに従って何グループかに別れ汗を流していた。

私は壁面に据え付けられたバスケットゴールを見ながら、
自分が小学生の頃を思い出していた。
夏の練習はいくら陽射しの遮られた体育館内でもさすがに暑い。
脇にあるハシゴ階段をスルスルと登って、窓を開閉するのが私の役目だった。
小柄で身軽な私はこのハシゴを登り降りするのが好きだった。
そしてワックスがきいていて磨きあげられた床面が、
バスケットボールでドリブルするたびバンバンと大きな音を立てて揺れる。
 
今回はテニスボールだったからそういうことは無かったけれど、
でも子供たちが走り回るたび床面はキュッキュッと音を立てて揺れた。

きっと私と同じように、
ここに居る子供たち一人一人にも誰にもわからないけれど
自分だけが憶えている記憶、みたいなものがたくさん生まれたことだろう。 
   
私は自分にしかないだろう記憶の欠片の一片と遊びながら、
そして我が子を見つめながら所在なげに写真に納めていた………2009年、夏。
  
  
  


■PHOTOS■
■DSLR■Olympus E-30
■LENS■Leica D Vario-Elmar 14-150mm F3.5-5.6


 

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コメント 4

copland_YB

木の床の体育館だ!懐かしいですね。
あのキュッキュッっていう音は、こういうところでしか聞けないですね。
by copland_YB (2009-08-20 15:27) 

Nishi

そんな特別な匂いの記憶・・・・・・・・あります!!


ふっといろんなものから解き放たれたような感覚・・・・・・・
by Nishi (2009-08-20 22:41) 

ゆっきぃ

アタクシもミニバスをしてたんです。
運動神経はさほど良くなくて、体格だけで
先輩に混じってレギュラーに選ばれて。
誰も期待してなかった残り3秒に
マグレのスリーポイント決勝シュート。
決めた自分に鳥肌が立ちましたよ。

後にも先にもそれっきりですけどね(^_^;)
球技は向かないなぁ…
by ゆっきぃ (2009-08-20 23:35) 

nal

>copland_YBさん
聴覚とか嗅覚って、ある意味視覚よりも脳に深く刻まれますよね!
>Nishiさん
そーなんですよ…コドモを通すとそういう経験、ますます増えます。
>ゆっきぃさん
そうですか!スリーポイントの奇跡はもしVIDEOが残ってたらテレビに投稿できたでしょうに(笑)

by nal (2009-08-22 09:32) 

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