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カブトムシと居た夏 [おもいでがたり]

かあくん。
文武両道なリーダー的存在で兄の影響でスターウォーズとかガンダムにやたら詳しい。
ただ偉ぶるような所があり鼻持ちならないとの評もアリ。

クニ。
家具チェーンの御曹司。町内の夏祭りとかもクニの会社の駐車場でいつもやっていた。
あの頃ハワイに行ったなんてヤツは、小学校でも彼だけだっただろう。

カズノリ。
野球部の体育会系でいつも真っ黒な顔をしていた。
学校のガキ大将的役割でかあくんと対立するような雰囲気もアリ。

テツ。
米屋の息子。寡黙ながら足はめっぽう速く、運動神経で右に出る者無し。
みっちゃん。
地域の大工場の息子。
低い背といい学校の成績が良かったところといいワタシと似ている雰囲気。

ともくん。
床屋の息子で小学校一のチャラ男、オンナ好き。
背も高くそのルックスから休みにはよくオンナの子と遊んでいた。

きみくん。
大病院の息子。典型的金持ちで気弱な病弱息子といった風情で、 きみくんちに遊びに行くとニオイ消しゴムとかもらえた。
オヤツもケーキとかクッキーなんかが出て豪勢だった。

nal。
駄菓子屋の息子。のちに喫茶店の息子。
典型的優等生でいつもずっと学級委員とか児童会長をしていて先生からの信頼も厚い。
ただ優等生のストレスがたまに爆発して「原爆nal」と陰口を叩かれたことも。

 
登場人物の羅列に深い意味は無いのだが、
小学生だった頃、同じ町内に私を含め8人もの同級生が居た。
しかも全員オトコの子。
そこは下町で旧市街地の小学校。
1学年90人3クラスしか無い中で、それは奇跡的な出会いだった。
上を見ても下を見てもこんなに同級生の集まった学年や町内は無く、
そういう意味ではとても恵まれた町でワタシは日々遊んでいた。
 
それも登場人物の羅列にあるような学校でも目立つ存在のヤツらばかり。
ガキ大将的な存在が2人に学校随一のオカネ持ちが2人、
運動会のヒーローに誰もが一目置く優等生、そして児童会長のワタシ。
 
幼い頃からワタシたちは20世紀少年よろしくいつも一緒に遊んでいた。
目の前の公害バリバリな川で泳いだり、下水溝を探検してネズミを探したり。
橋の欄干に宝物の隠し場所を作ったりもちろん茂みに秘密基地も作った。
いつも我が家がやっていて駄菓子屋に集まって、
目の前の道路に白線を引いてドッジボールをやったり
たま〜にしか通らないクルマめがけて癇癪玉を投げたりしていた。
 
しかし、10歳を前後するようになると徐々にワタシたちは遊ばなくなっていった。
小学校の共通の趣味の友だちと仲良くなったり部活動に打ち込んだり、
習い事で一緒に遊べなくなったりして全員が一緒になる、ということは減っていった。
   
 
   
そんな小学校5年生、1980年前後の夏休みのある日。
  
ワタシたちは珍しくクニくんの家に集まった。
たぶん学校で出された町内会でやる夏休みの課題か何かの話し合いがキッカケだったと思う。
みんな揃って集まって遊ぶことの少なくなっていたワタシたちは、
久しぶりの幼なじみの集まりにテレ臭くも懐かしい気持ちで居た。
 
かあくんが最近買ったガンダムのプラモデルのことや
アニメ本(?)を持っているなんて自慢、スターウォーズの話なんかを始めた。
そう言えば小学校3年生の時に
ドラえもんという漫画の存在を自慢げに話してくれたのも、かあくんだった。
ガキ対象としてライバルでもあり体育会系のカズノリは、興味無さげに話を聞き流す。
クニくんは親と行ったハワイの写真を見せてくれたりする。
 
 
しかし、その時に私たちの気持ちを鷲掴みにしていたモノが、別にあったのだ。
   
 
 
 
  
カブトムシだ。
   
クニくんはカブトムシを大量に飼っていた。
それは成虫はもちろんのこと幼虫もたくさん居た。
その中に、サナギも居たのだ。
 
カブトムシのサナギ、もちろんやがて脱皮して黒々とした成虫になる。
久しぶりに町内の同級生8人がクニくんの家にお邪魔したあの日、
丁度二匹ほどのサナギが成虫になるかならないか、という日だったのだ。
 
アブラゼミが泣きわめき、
駐車場のアスファルトがかげろうを作るような暑さのあの日、
10歳児8人はぽつりぽつりと色んな話をしながら
クニくんの家のカブトムシの居る部屋でずっとその時を待っていた。
 
閉められていた暖色系のカーテンを通して、
赤みがかったやわらかな光がその部屋を覆っていた。
薄暗い部屋の中で、クニくんのお母さんが出してくれたコーラやカルピスを飲みながら、
8人はジッとその時を待っていた。
 
やがて。
 
私たちは、半日以上もそこに居座ってその時を待っていた。
もぞもぞと動き始めた茶褐色のオスのサナギの背中が徐々に破れて行くと、
真っ白なカブトムシの成虫の羽根が徐々に姿を現して来た。
少しサナギを破り、そして少しずつ動いて姿があらわになってくる。
ツノが出てくるのはもちろん最後だ。
ようやく皮を脱ぎ捨てたカブトムシ、その羽根は真っ白だ。
そして少しずつ、羽根は茶色を帯び始めた。
途中でシビレを切らしたテツが、そのサナギを動かそうとした。
本来固く強固なはずのカブトムシの羽根が、
テツの指の力で少しヘコんでしまったのを見て皆が必死でテツを止めた。
    
その後は誰も手出しをしようとせず、息を潜めてジッとカブトムシを見ていた。
    
脱皮した成虫の真っ白な羽根は、少しずつ黒く固くなっていった。
ワタシたちは8人で、ジッとその様子を見ていた。
 
 



その後いつ解散したのかとかその時何の話をしていたのかとか、まったく憶えていない。
けれどジッとサナギの羽化を見ていたことは、ハッキリと憶えている。
そして真夏の暑い部屋の中の景色。
カーテン越しに注いだ生暖かいような柔らかいような光。
ジットリとした空気。冷たかったカルピス。
 
あれから30年近く経った今でも、ワタシは手に取るように思い出せるんだ。
 
 
 
P8233465.jpg
■PHOTO■2009.08.23




今、我が家にはカブトムシが居る。
7月末に行った小淵沢で、コドモにせがまれて連れて帰ってきたからだ。
当然の成り行きか、世話はワタシがやっている。
毎晩エサを与え、そして土の水分をチェックして霧吹きで調整したりしている。
 
たまにカブトムシをジッと見ていて、止まらなくなることがある。
あれはオトコのコの特権なんだろうか。
19時20時とかではカブトムシは土の中で眠っていて姿を現さないことが多いのだけれど、
たまに地表に出て来てウロウロと歩き回っているとき、
ワタシはカブトムシから目が離せなくなって10分以上もジッと見ていることがある。

それはコドモたちも同じだ。
ワタシと一緒になってエサをあげるのを手伝ったり、
カブトムシをジッと見たまま動かなくなってしまう。
たまに「いいよ」と行ったときは、
うれしそうにカブトムシを持ち上げて興味深そうにしている。
 
そんな時、クニくんの家の薄暗い部屋で、
8人すし詰めでジッとカブトムシの羽化を見守ったあの瞬間を思い出すんだ。
我が子っていうのはある意味、ワタシにとってのタイムマシン。
自分の記憶のカギを開けてくれるタイムマシン。
   
彼らもきっと、何十年経っても思い出せる想い出がひとつくらい出来たんじゃないかな。    
そんなコドモたちにとって思い出いっぱいの夏休みも、あと3日……。 
 
 


<コドモの頃の町内での思い出>

2005.03.12「川に落っこちた」
http://nalfalfa.blog.so-net.ne.jp/2005-03-12

2007.04.13「7歳。鮮明にある記憶」
http://nalfalfa.blog.so-net.ne.jp/2007-04-13

2007.11.14「根無し草の根」
http://nalfalfa.blog.so-net.ne.jp/2007-11-14
 
 


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コメント 4

luka

20世紀少年、かな。
by luka (2009-08-29 16:52) 

JOHN

20世紀少年みたい!
よげんの書なんて残してないですよね?
オトコノコはいつまで経っても
オトコノコなんですね。
残り少ない夏休み、楽しんでください♪
by JOHN (2009-08-29 17:25) 

eddie

なんか懐かしくなってきました。
by eddie (2009-08-31 22:58) 

nal

>lukaさん
10年ズレてますが、ね。
>JOHNさん
たぶん日本全国あの頃はあんなガキばかりだったんでしょうねぇ。
>eddieさん
ありがとうございます!

by nal (2009-09-01 09:16) 

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