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前日に [N&alfamiglia]

きっかけは何だったのかと思い出してみると、
きっとそれはご近所の幼なじみの存在があったからだろう。
4年ほど前に幼なじみのお兄ちゃんが「中学受験をする」と聞いて、
私はもちろんコドモ関係の知人友人もみな驚いた。
何故って、この地域はそういう土地柄ではないからである。
公立王国として名高い我が県では私立中学に通うなんておよそ一般的では無い。
地元の中学から公立高校へ進学する、それが当たり前のこと。
公立高校で優秀なところはそれこそ数限りなくあるからだ。

でもそれがとっかかり。
そしてもう一つは、学区の中学校に水泳部が無かったことだ。
イマイチスポーツが得意ではない長男も唯一水泳は大好きだった。
幼児から習っていたので実際に得意で泳力検定一級もゲットしている。
中学生になったらスイミングスクールには行きずらいので、
水泳部でバリバリ泳ぎたいと語っていた長男。
私たちは幼なじみのお兄ちゃんのことを思い出し、やんわりと提案してみた。
  
「試験受けなきゃ入れないけど、私立のあの中学だと室内プールで
1年中、冬にも泳げるよ?ためしに見に行ってみようか?」と。

小学校4年生の秋のことだった。
 



私は決して前のめりでは無かった。
小学生は外で走り回るのが仕事で、
中学生は近所の仲間たちと共に良いことも悪いことも経験して成長していく。
暴力的な人、消極的な人、マセた人も勉強熱心な人も色んな人たちと
ふれあうことで人は成長していく。
そう思っていたから、
何も好き好んで遠くの中学へ行かなくても良いじゃないかと思っていた。
   
けれど、最初に行った私立中学見学で長男は即ノックアウトされた。
    
「おれ、ここに行きたいんだけど!」
  
「勉強は?」「頑張る!」
「遊ぶ時間が減るよ?」「頑張る!」
「塾行かないと難しいよ?」「もちろん行くよ!」
 
そう言われて止める親は何処にも居ない。
かくしてころころと転がる石のように我が家の行く先は決まった。
よくわからないので地域最大手の中学受験塾Mの情報を集め、
とりあえず冬休みに冬期講習、春休みに春期講習を受講し、
5年生になるとそのままの流れでM塾へ通う日々が始まった。
 
私世代の人間ならわかってもらえると思うが、
正直「偏差値」なんて言葉は死ぬまで使いたくなかった。
モノサシの中でも最悪のモノサシが「偏差値」。
こんなもので人間の価値を計られてたまるか!
と、同世代ならわかってもらえると思う。

しかし毎日「偏差値」を目にする日々がやってくるとは夢にも思わなかった。
ましてや子供の口から普通に「偏差値」の言葉が出てくる日がこようとは。
確かに中学受験に飛び込んだからには偏差値は避けては通れない言葉であり基準。
少々の葛藤を抱えながら、偏差値を目安に学習の進捗を探っていく。

長男にとって、学習塾は楽しい場所だった。
新しい知識、新しい解法、そしてプロの講師がそれをおもしろおかしく教えてくれる。
今思い返しても、塾に行くことを嫌がったことはほとんど無かったと思う。
ただ、塾から与えられる課題(宿題)にはほとほと参った。
長男は短期間の集中力、思考力は目を見張るものがあるが
飽きっぽく、そして努力が一向に長続きしない。さらに気分に左右されまくりである。
後に”根気強い性格”の次男も同じ塾に通うことになるのだが、
次男が2時間ほどで終える課題を長男は日をまたいで3日がかりで終わらせていた。
彼は今日、寝る時間が取れるのかと本気で心配する日が続いたほどだ。
 
極めつけは課題がやりたくないからと”家出”の暴挙に出ること2回。
1度目は、近所のスーパーで”うまい棒”を買い、
それを夕食にして公園で野宿しようとしていたところを発見した。
2度目は大雨の日、スイミングスクールの駐車場を脱走するとそのまま何処かへ消えた。
探して探してどうにも見つからず夜を迎え、
もう警察に電話しようと覚悟を決めた頃に最後に探した駅近くのスーパーで、
タコ焼き売場のベンチに座っているところをようやく発見したのだった。

見つかったからこそ言えることだけれど、私は思わず笑えてきてしまった。
そして「見所あるな」なんて不謹慎なことも思っていた。
”彼は地元ではなく遠く離れた中学で、外に開いた世界を楽しめるんだろうな”
そんなふうに思えて私の中の覚悟も定まったように思う。
 
 
5年生の時は週3日、
6年生になると週4日に加え、
日曜日は電車に乗ってメイン校へ模試(のようなもの)を受けに行く。
塾の友だちは夜の弁当持参で授業を終えるとそのまま塾で夕食、自習室で学習だ。
我が長男はとてもそこまで出来なかったが、
帰宅するやそそくさと夕食を済ませすぐに課題に入った。
  
我が家ではずっと、夜のテレビを付けることはなかったし団欒も無かった。
静かにして、彼(ら)の勉強の邪魔にならないようずっと気を遣っていた。





成績は一進一退だった。
それからもうひとつ、私の中で感慨深かったことがある。
 
親ではあるけれど、客観的に一社会人として我が長男を見た時に、
”彼は頭脳に関しては恵まれたものを天から授かっているはずだ”と評価していた。
まあ簡単に言うと”アタマは良いほうだ”ってことだ。
社会人二十数年、色んな人を見てきたんだから自分のジャッジに多少の自信はあったし、
息子で無く一人の人間として客観的に私はそういう判断をしているつもりだった。
 
しかし入塾当初、そんな考えは木っ端みじんに砕かれた。
具体的には、平均のチョイ上である。
進学塾Mはクラスも成績順でわけられ、その席順も成績順だ。
ものすごくシビアでだからこそ自分の現在の位置が一目でわかる。
子供にとってはそれが大きなモチベーションにもなっていた。
    
私が”出来る”と思っていた長男が、彼にしては相当な努力を払ったはずなのに、
あんなに泣きながら課題をこなしたのに”平均のチョイ上”。
具体的には上位のクラスにはいるものの、
4列ある座席のうちの3列目か4列目が指定席。
    
それこそトップグループなんて雲の彼方、神の領域である。
どうしたらあんな成績が出せるのか、私にはその道がまったく見えない。
こんなことは誰にも話せないし態度にも出せないので、ここに書いておく。
 
”所詮オレも井の中の蛙だ…自分の経験値や判断力なんてこんなもんか…。”
 
自分のことでも無いのに、当時は勝手に落ち込んでいたことをここに告白しておく。

しかし。
ここからが親バカの本領発揮である。
私の目は節穴では無かった。彼はやはり出来る男だった。
塾に通いだして半年ほど、5年生の冬を迎えたころから徐々に頭角を現し、
6年になった頃についに”化け”たのだ。
 
6年生からは、ほぼ上位クラスの一列目をキープしていた。
私たち夫婦が勝手に「神」とあがめている児童が二人居るのだが、
一度は2位の座を奪うことが出来た。
1位の友だちは、全部の塾の中でも1位になってしまう”本当の神”なので、
さすがに追い抜けなかったが……。
 
他人から見たら物足りなかったのかもしれないけれど、
彼は彼としては十分に努力したし頑張った。
息抜きが多すぎたのは否定出来ないが、
それでも”自分が一番能力が発揮出来るよう”にメリハリを付けて居たのだと思える。




今、私はこの2年を振り返ってとても素晴らしい日々だったと思っている。
下手に能力があるだけに、努力しなくても”他人よりは出来てしまう長男が
当初は「平均のチョイ上」に甘んじる中でも、腐らず努力し続けた。
 
呆れないで聞いて欲しいが、私に似ているからこそわかる。
努力しなくてもどんな集団に居ても真ん中よりは上に居られる人は、
努力をしないままではせっかくの能力を磨くことなく終わってしまう。

本当は、もっと輝けたかもしれないのに。
   
私は私の今の立ち位置について後悔はしていないけれど、
でももったいない育ち方をしてしまったな、というのは時折思う。
「根気が足りない」「努力したくない」自分の性格だから自業自得とは言え、
何故あの頃もっと打ちのめされ、
そしてそれを糧に自ら磨く努力をしなかったのだろうと思うことはある。
   
長男は「中学受験」という形ではあったけれど、
頑張ること、努力することを学んだ。
「俺は頑張れるんだ」ってことに気付くことが出来たし
「努力すればもっと素晴らしい場所まで到達出来る」という自信にもなったと思う。
 
それが身についただけで、この2年間があって良かったと心から思う。

今日ここに急に長男のことを書き始めたのは、
現在彼は中学受験の真っ最中だからである。
4校中2つの受験を終えおかげさまで2つとも合格を頂くことが出来た。
ひとつは有り難いことに特別奨学生として、
そしてもうひとつは、
冒頭に出てきた最初に彼が「行きたい!」と行った水泳部のある中学である。
  
残すはあと2つ。
県内トップ校だけにどうなるかはわからない。

けれど親である私にしてみれば、既に彼は最高の合格を手にしている。
これだけ「頑張れた」こと自体が、彼の絶対の財産だ。
私にとっては「どの中学に通うか」よりもその事のほうが遙かに大きい。
きっと彼に一番ふさわしい学校が彼を迎えてくれるはずだから、
悔いを残さないよう全力を尽くして欲しいと願っている。







<ひとりごと>
 
し、新年おめでとうございます……ってもう2月か(汗)
毎晩の送り迎えの日々、ウチの彼女は毎日夜の弁当を届ける日々。
そして課題をやれとバトルする日々も今日で終わりです。
これはいつかここに文章として残しておきたかったことです。
 
長かったようであっという間、この濃密な2年もまもなくクライマックス。
でも本心から私はもう満足です。ウチのボーズはよく戦ったし素晴らしく努力した。

それがわかっただけで、オトーサンは十分です(泣)





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michi

おめでとうございます
去年の坊主の受験を思い出しましたw

by michi (2017-02-03 16:12) 

mr.hardcore

私も努力する才能がなかったクチです。
息子さん、とても頑張ったんですね。
少し早いかもですが、おめでとうございます?
残りの日程もいい結果であることをお祈りします。(お久しぶりです。
by mr.hardcore (2017-02-03 21:26) 

nal

>michiさん
おめでとうございますっ。
いやマジで大変でした〜でも来年もあるんです泣
>mr.hardcoreさん
これ勉強だけじゃなくて部活でも習い事でも何でもいいんですけど、挫折して努力してっていうのが…私には何も無く、だから大人になってから根性出すのに苦労しました泣。
ボーズはまがりなりにもやり遂げましたので、尊敬してます!
by nal (2017-02-04 09:20) 

GEN11

選択肢があるのは素晴らしいです。長男くん頑張りましたね!おめでとうございます。県内トップ校も受かるといいですね。
人間100%、120%の努力ってなかなかできません。人間として良い経験だったと思いますよ。どの道を選んだとしても間違いはないでしょう。

by GEN11 (2017-02-05 17:14) 

かの

もうおわったのでしょうか。まだ試験がのこっているでしょうか。
何はともあれ、長男くん、親御さん、おめでとうございます。お疲れ様でした。
うちも私立中学ではなかったんですが、中学受験を経験しました。
受験のときって、「自分がやると決めたことはやるのだ。やらねばならぬことはやるのだ。そしてその結果は自分が引き受けるのだ。」ということを伝え続ける機会のように感じました。(そしてバトるw)
私は高校受験のときにそれを身にしみて感じ、娘は小学生にして自覚したように思います。
親として一番伝えておきたかったことは、もう伝え終わってしまったように思います(早いw)
自分は頑張れる。という自信はなによりの力になると思います。
ほんと、お疲れ様でした。(*^_^*)

by かの (2017-02-06 03:42) 

nal

>GEN11さん
ありがとうございます〜。2年は長かったですが終わってみれば「ん?明日からはもう何も無いのかな?」と呆けた気持ちにもなります笑。「あれだけの事を自分は努力できた」というのは何者にも代え難いので、この気持ちを忘れないでもらいたいものです。
>かのさん
昨日が最後でした!昨日は帰宅後、即貯まっていた録画のアニメを見ながらマイクラ(ゲーム)をしつつコロコロコミックを読みiPodで音楽を聴くという「なんだコイツ」状態になっています(笑)もう努力の人は居なくなりました〜。
勉強はどうこうではなく、野球は得意なら野球で、将棋が得意なら将棋で、より上手い人に圧倒されて挫折しつつもそれを乗り越えて努力し続ける、ということを中学受験という機会で経験できたのは、本当に良かったと思います。でも昨晩のアイツを見ていると「大丈夫か?」と既に思い始めてますが苦笑。まあ少しくらいノンビリも暖かく見守りたいと思います。
by nal (2017-02-06 09:19) 

青小船

おめでとうございます!
自分の意思で自分の行きたいと思う学校に努力して合格できたのは非常に良い経験だと思います。
そして、それを親としてサポートすると言うのも良いなと思いました。
うちの娘はまだ先の話ですが、子どもの意思を尊重した、そんな風にできたらなと思います。
妻の方はちょっと前のめり気味ですが…笑
by 青小船 (2017-02-07 15:53) 

nal

>青小船さん
ありがとうございます!てか大いなる道しるべな青小船さんに読まれると恥ずかしいんですが(笑)
失礼ながら当初、私は態度には出しませんがホントに否定的でした…でも「能力だけでは届かない」「ちょっとの努力でも届かない」事実を理解してそこからさらに負けずに上を目指すという…素晴らしい体験が出来て本当に良かったと思います。
ただ…やっぱあからさまに親から行かせようとするのは私は今でも反対です…が、オープンスクール連れてけば大抵のコドモは「行きたい!」って言うでしょうね(苦笑)キレイだしスゴイですもん。ま、そこから頑張れるかは別の話ですが。
by nal (2017-02-08 09:55) 

アキオ

遅まきながら。。

大人になったんですね、、一足先に。
と思いました。
到達地点は似たような(いや違うんですけどねきっと)
大人の世界ですが、やはり、決めたことをやり遂げる、
というのは、覚悟と、根気と、やっぱ才能ですね。
努力とはあまり縁がなかった気がする自分が言うので
間違いないです。
努力、や、気持ちを維持するのは、一つの才能ですよ。。。
ウンウン。。。
by アキオ (2017-02-23 19:34) 

nal

>アキオさん
ありがとうございます!ただ…かれこれ20日ほど経過しましたのでもう府抜けたボーズしか我が家には居りませんが(苦笑)
「これだけ努力出来た」というのは本当に将来の糧になると思うんです。ワタシが体育会系の正反対の人間なので、ボーズを尊敬してます。やっぱ全力を出さないと、ですね。
by nal (2017-02-25 14:36) 

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