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主観のない事実はあり得ない [映画音楽本とか]

人の生き方にかかわり合いを持ちたくない。
そんな風に思っていた時期がある。

たぶん24歳頃から30歳くらいまでだったと思うが、
他人の人生に影響を与えたくない。誰の生き方にも痕跡を残したくない。
と思っていた。

それは多分、
あまりにも多くの人たちに影響を与えてしまったという
恐怖感があったからだろう。

影響というよりも、傷付けたという確信。

私が居なければこんな目に遭わなくて済んだろうにと思うと、
夜も寝られなくてお酒を飲んでやり過ごしていた。
 
男女問わず行き先や心の拠り所を亡くしたり、
しばらく立ち直れないようにさせてしまう振る舞いがあった。
以前の仕事でも、そういう話を聞いたことがあった。
直接私が何かしらの訴えを受けたわけではないのだけれど、
そういう事があると胸が締め付けられる思いがした。
 
自分さえ居なければ、と。
  
だから必要以上には関わらず、
誰にも痕跡を残さず傷付けず、影響を与えないようにしたかった。
  
  
けれど、そんなことは不可能なことだ。
    
 
現在、とある雑誌に坂本龍一さんが自伝的なエッセイを連載しているのだが、
二ヶ月ほど前の回の一節で、興味深いものがあった。
    
 


 
私は音楽を志すつもりは毛頭なかったし熱心でもなかった。
音楽であれ小説であれエッセイであれ、
書き手や弾き手、作り手の主観無しに作品は生まれない。
事実を書くとしても、その事実は書き手にとっての事実であり、
第三者から見た事実と同じであることはあり得ない。
私はそういうものに打ち込むつもりは、まったく無かった。



 
     
たしか、そんな内容だったのだと思う。
それを読んだときに、
何故か私は他者から遠ざかろうとしていた頃のことを思い出した。
なぜならその頃、表面的な付き合いをしていれば、
他人になんら影響は与えずに済む、傷付けずに済むと思っていたからだ。
 
しかし受け止め方はそれぞれであり、
私が発信したかった意志ですら発信した瞬間、
それは他者の意志にゆだねられる。
それを私がコントロールすることは出来ない。
 
そんな当たり前のことに、当時の私は思いが至らなかった。
物事の捉え方は、一人一人必ず違うものだから。

そんなことを考えたのには、もうひとつきっかけがある。
  
 

ユナイテッド93

ユナイテッド93

  • 出版社/メーカー: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
  • 発売日: 2006/11/30
  • メディア: DVD


ひと月ほど前にようやく観ることが出来た映画だ。
”911”の航空機ハイジャックを扱った”ほぼ実話”と言われるこの作品。
私は息をするのさえ忘れそうなほど、画面にのめりこんでこの映画を観た。
  
胸が張り裂けそうだった。
 
この映画は、
標的に的中しなかった唯一の航空機「UNITED93便」の
機内の状況が詳細に描写されている。
それは事件のまっただ中に遺族の方々が受けた電話を遺族の方々からヒアリングして、
すべてを構築した「ほぼ事実であろう」というストーリーだ。
客観的に得た事実を、
ドラマティックに飾るでも盛り上げるでもなく淡々と話は進んで行く。
 
ここに書いておくが、私はこの映画を観て良かった。
忘れない映画を挙げれば、その中に必ず入ると思う。
 
しかし、だ。
 
すべての遺族の方々や関係者から詳細なヒアリングをし、
フィクションを排除したこの物語でさえ、監督なり制作者の主観は間違いなくある。
  
ハンディカムで不安定な映像を用い、
事実であることを観るものに強烈に意識させるという演出。
機内の状況も、遺族の方々の主観が必ず含まれているはずだ。
事実を一度遺族の方々というフィルターを通しているから当然のことだ。
そして詳細は書かないが政治的主張も、含まれている。
「UNITED93便を、アメリカは撃墜していない」という主張だ。
  
私はこの映画の映像と”ほぼ事実”であることに胸を打たれたと同時に、
監督なる制作者がどのような思いでこの映画の骨格を作り、
アイデアを練りひとつの映画としたのかを考えながらこの映画を見た。
   
”映画”と”制作者の主観”のふたつを同時に考えながら見ていたのだ。
にも関わらず、私は画面に引き込まれ目が離せなくなった。
    
きっと、それが優れた作品であるということなのだろう。
   
   
主観の無い事実はあり得ない。
そして主観でさえ、
発信した瞬間には自身の手を離れ、受け手にすべて委ねられる。
  
そんな難しいことを考えたわけではないけれど、
30歳前後くらいから、
私は「影響を与えたくない」という気持ちは徐々に薄くなっていった。
逆にどれだけのエリアに痕跡を残せるか、くらいに今は考えている。
  
特に家族が出来ればなおさらの事だ。
意識的であろうと無意識であろうと、
必ず我が子は私の振る舞いを見、そして言葉を吸い込んでいく。
だからこそ、子供が居て家族が居ることがうれしくも感じる。
  
良い影響を与えられるか反面教師となるか、先のことはまったくわからない。
けれど大切な事には意志と主張を込め、無責任にならないようにしたい。
  
もちろんここにある記事も、そうだよね。
 
 



  
  
<追記>
  
  
家族の居ない昨日、一人で観たのはユナイテッド93ではなくこの映画。

ステルス デラックス・コレクターズ・エディション

ステルス デラックス・コレクターズ・エディション

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • 発売日: 2006/09/27
  • メディア: DVD


完全なるエンターテイメント娯楽映画です。
映像が凄まじく、とても面白かったです。
まあハリウッド娯楽映画の典型で、背景も掘り下げもまったくないのですが、
”たまには大作映画でボーっとしたい”時にピッタリ。

で、この映画を見ながらユナイテッド93を見たときのことを考えつつ、
この記事のようなことが頭の中を行ったり来たりしていたのでした。

”ステルス”は、それくらい害のないラクに楽しい映画でした。


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アキオ

コメントが難しい記事ですが、、
自分の中でもう一度かんがえたいかも、、united93

まわりに影響を与えない行動なんて出来るワケないんですよね、
ただそれが、ポジティブ方向ばかりでないであろう事が問題で。
でも、自分ではどうしようもない事も多々あるモノですよね。
考え方もその時ソノトキで微妙に変わって行く物だな、と
今振り返る事が出来るというのは、幸せな事ですよ、きっとね。
by アキオ (2007-02-10 13:55) 

斉藤ようこ_nina

ふうむ。
私はかなりいい加減でわがままな人間なので、そこまで真面目に考えたことはないのですが、ひとつだけ自分に言い聞かせていることがあります。
「基本的に他人は、自分の思い通りにはならない」ということ。
そう思っていると、何か通じたときに、とっても幸せな気分になったりするんです。
なので、これは私の中では「ポジティブ」な考え方。
…nalさんの主旨とはずれてるかな?
by 斉藤ようこ_nina (2007-02-10 22:11) 

ぷぅちん

自分の発言や文章が相手に与える影響を考えると、
こうして文章をうつのも怖ろしくなります(´Д⊂
無料のブログでも匿名の掲示板でも”文責”はある、と
パソコンのモニタにポストイットを貼っているつもりです(つもりかよ)。
by ぷぅちん (2007-02-10 22:51) 

りうが

いつも思うのです。
自分の見ている風景は、他の誰も共有できない。
その感触も、それについてどう感じるのかも。
自分の体から生み出した子供でさえ、何物も共有できないのだと。
それを寂しく思う反面、だからこそ、一緒に居て、
お互い補い合うのかな、と、母になって思うのです。
「かかわりを持たない」というスタンスの時期もあってこその、
今のnalさんがあるのだと思います。
・・・アカンやっぱ底の浅いワタシにはコメント無理だ・・・(苦笑)
by りうが (2007-02-11 05:30) 

はる

まったく同じ考えとか気持ちにはならないかも知れないけれど・・・
同じような気持ちや考えになってくれる人もいるし・・・
気持ちや考えを分かってくれようとしてくれる人も居るし・・・
自分もわかって欲しいと思うときもあるし、分かってあげたいと思うときもあるし・・・1人じゃ生きていけないし・・・誰かの気持ちになって悲しくなる時も有るし嬉しくなる時もあるし・・・何を言おうとしていたかわかんなくなってきたけど・・・RくんHくんには影響与えまくりのnalさんなのですから・・・DNAで思いっきり残っていくんですから・・・。
by はる (2007-02-11 13:04) 

norinori27

「ユナイテッド93」は去年みた映画のベスト3に入った映画でした。

今度DVD発売される9.11関連の映画、「ワールドトレードセンター」
ニコラス・ケイジ主演オリバーストーン監督作品。
映画館で見ましたが思っていたよりパニック映画風に出来上がっていて
おいら的には良かったです。
ストーン監督なので「テロ」を全面的にだした映画なのかと思っていまし
たが、導入部を除けば設計ミスで倒壊したビルに閉じ込められた人の物
語になっていました。
だた、このような状況は「敵」であるイラクにも起こりうる出来事。

アメリカの空爆によりビルが倒壊。そこに閉じ込められてイラクの消防
士。。。

日々起こるニュースに対してどれだけ客観的に見ることが出来ているの
か自問自答しています。。
by norinori27 (2007-02-11 20:00) 

nal

★お詫び★
この他に一件コメントを頂いていたのですが、誹謗中傷が含まれると判断しました。ですがせっかく頂いたコメントを削除するのも何ですので特定できる情報のみ伏せ字で書き直させて頂きました。
以下、2007.02.12 13:28に頂いたコメントです。(伏せ字、URL以外は原文のままです)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ブログは自由に発信できる場
コメントも自由
ログインしてようがしてまいが
自由に発信、自由にコメントできる
それがイヤなら拒否すればよい
自分と反対意見批判意見がいやなら
全国発信しなければよい ブログやめればよい
近所のババァ連中の井戸端会議でやっとけ

※※って

頭皮が赤いんだって
おさるじゃないの
お尻もあかいのかな
きったねーな

※※って
髪染めてないのに頭皮が赤いんだって
ブログに必死になってストレスで赤いんだって
ブログ命の孤独なヤツ
ブログがお友達
自分をマリーアントワネットだなんて
ナルシストにもほどがあるな
自分のブログには綺麗ごとのナスシストで
人のブログでは平気でイヤミなコメント
ブログの持ち主は迷惑なんだよ
これがホントの※※のすがた
皆だまされるなよ
http://-------(URL が入ってました)
by 蒲公英えいこ (2007-02-12 13:28)
by nal (2007-02-13 09:14) 

nal

>アキオさん
もうすぐワールドトレードセンターも発売になるんですよね。ニコラスケイジだし。そうそう、前に記事かコメントで書いたことあるんですけど、仕事も「他人がどう思うかがすべて」という教育を受けたのでそーゆーのもあったのかもです…。
>ひなぐまさん
まさにワタシもそーゆーふーに思ってます。で、弱っていた頃は過剰にそう思うあまり発信出来ないカンジになってたんだろーなー、とワタシは思ってます。
>ぷぅちんさん
ま、ブログだけの話じゃないですよ。日常だってひとつひとつの行動によって傷付く方も喜ぶ方もみえるわけで、それは制御出来ないし怯えていても何も解決しないってゆーかどーにも出来ないんで、理解しつつ淡々と、ってカンジでしょうかね…(悩)
>りうがさん
理解出来ない(しきれない)からこそ面白いんです!!!きっとその通りです!!最近カメラ雑誌読んでると「色」についてたくさん記述されてるのですが、色だって個人個人見え方が違いますから。ワタシだって右目と左目で見え方違いますもん(ホントに違う色に見えるという意味です)
>はるさん
何があってもまあ「自分が悪い」と思うほうが、楽というか心の落としどころがあるとは思います。「アイツのせいで」って全部他者に押し付けてると、鬱積するばかりで落としどころが無いですから…。何事もなくずっとハッピーだったら、それが一番幸せなんですけどね。
>norinoriさん
良かったですか!見てないんです。DVDは絶対買います。しかし、ビルの設計者って日本人でたしか革新的な構造を採用してたんですよね…。(悩)ニュースでも、読む人と仕入れた人の主観の上で成り立ってますからね。俯瞰してみられるっていうのも技術なんですようねぇ…。
>蒲公英えいこさん
ありがとうございます。えーお礼の後で何ですが、上にありますように誹謗中傷と判断した部分は伏せさせて頂きました。ペコリ。
あとやっぱり、なんとゆーか…現実だって、例えばクラスでめっちゃイヤなヤツが居たとしてそれを町中にビラをばらまいたり触れ回ったりするのは良くないことだしweb上でもそれは同じことじゃないかなーと思ったりもします。フツーは日常でそーゆーことしないでしょうし…してたらヘンですし(選挙妨害の誹謗中傷合戦みたいな?)記事の通り、主観を他者と完全に分け合うことは難しいし、発信した瞬間その事実は他者の主観によって判断されます。
ワタシが育児の記事書いてて、それで悲しむ方もみえるかもしれないし、クルマの記事書いて、事故等に遭われた方なら憤慨してるかもしれない。「雪が積もればいいなぁ、雪だるま作りたいなぁ」って書けば沖縄の少年は羨ましがるかもしれないし雪国の方は「何言ってんだ、このタコ!」って思うかもしれない。それくらい主体ってのは不安定なもので…って何書いてるかワカンなくなってきましたが、とにかく自分の受けた主観を他者と完全に分かり合うことは出来ないんで…それでもガマン出来ない時はやっぱ本人と直接やり取りしたほうがいいのではないかと、思います。(メアドとかブロクルとか方法は色々あると思いますので)
by nal (2007-02-13 09:35) 

ゆうこりん

好むと好まざるとに関わらず、人はコミットメントを避けては通れないようです。それがどんなに自分主体のものでなくとも。
ネットにせよリアルにせよ、腹をくくる以外にないのかもしれません。
nalさんにとってはそれはそんなに難しいことではなさそうです。
私もそうありたい。
by ゆうこりん (2007-02-14 13:55) 

YuriMeine

人に与える影響が怖く、人と密に接することを恐れる自分がいます。
でも本当は、自分が傷つくのが怖いからです。学生時代に人間関係で失敗をして以来、人が怖い。人の目が怖い。
でも、それでも、一歩一歩自分のペースで踏み出しています。ムリはしない。でも殻に閉じこもるのもやめよう、と。
ところで「ユナイテッド93」、観たなぁぁ。あー最近映画魂封印しっぱなし(時間ないので)なので、そろそろ禁断症状が。。。あああ。
by YuriMeine (2007-02-14 16:49) 

nal

>ゆうこりんさん
「腹をくくる」ってのがピッタリですね。こーゆーのってどっちかと言うとぶっちゃけ「自分が嫌な思いをするのが嫌」ってのもあると思うんです。相手が傷付いてるのを観るのがツライ、っていう。世の何とも関わらないで生きるのはムリなので、そうですね「腹をくくる」ってカンジですね。
>YuriMeineさん
カラに閉じこもってても、あんまイイコトないんですよね。やっぱり色々あったほうが楽しいし。
映画、月イチくらいはDVD観られるようになりました。ただそーするとマニアっぽいのより、ついつい大作見ちゃうんですよねぇ…。
by nal (2007-02-15 10:37) 

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