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忘れられない街 [N&alfamiglia]

忘れられない街がある。
今でもその前を通るたびに当時のことを思い出す。
そして、我が子のことを。

2004年に新しく生まれた街。
その前年から手がけていた仕事がいよいよ完成に近づき、
私はイベントの準備に取りかかっていた。

彼女は臨月で里帰りしていた。
出産予定日は5月の中旬。
何かがあった時にずっとそばに居てあげられるように、
イベント決行の日はゴールデンウィーク前の4月24日からと決めた。

そして、4月に入ると私は徐々に準備に入った。
いつものように日々現地に通い、
チラシの原案を練り、パソコンとにらめっこして原稿を作成した。
印刷機に付きっきりで一週間がかりで10万枚を刷った。
並行して、パンフレットも作成した。
街中に案内看板を設置して回った。

そして前日、4月23日の早朝。
里帰りしていた彼女から、一本のメールが入った。

”破水したっぽいから病院行ってくるねー”

は、破水?
破水したってことは…生まれるってことか?
予定日は5月中旬じゃなかったのか?

私は動揺を隠せなかった。
明日から始まるイベントは、たぶんこの年で一番重要なイベントだ。
まだ、設営は終わっていない。
仕事は私ひとり。私がやらなければ、準備は終わらない。
しかし、私がすぐに病院に飛んで行かなくてどうするんだ。

けれど、なすべきことをやり終えねば、私は駆けつけられない。
メールを受け取って1時間少々した午前7時。
私はすぐに仕事に飛び出した。

会社で必要な機材をクルマに積み込む。
前日の準備は現地の設営だ。
テントとイスと机を運び込み、ノボリなんかを組み立てる。
あわせてパンフレットを印刷し、30部ほどセッティング。
アンケート用紙にイベント案内、その他もろもろを印刷。

ぜんぶの用意を整えるとすぐに現場に直行。

焦るような澄み切ったような妙な心境の中で、
私はせっせと設営を続けた。

10時頃、今回の工事を担当して下さった方が様子を見にきた。
仕事の打ち合わせの話を続けつつ、私は我が子の話を笑いながら話した。
   
   
”こんなことしてないで、すぐに行かなくていいのか?”
 
 
そんな事を言われたものの、初産だから長い時間かかるだろうし、
11時過ぎには出発出来るから13時前には病院に到着出来るだろう。
たぶん間に合うから、私は自分の仕事をやってから行きます。
 
そんな世間話をしていたことを憶えている。
軍手と革靴を汚しながら、私は一人でセッティングを続けた。
予定通り11時半頃に現地を出発、高速道路に飛び乗った。

途中で携帯電話が鳴り、私はサービスエリアに立ち寄って電話を返した。
彼女の妹さんからだった。

”緊急の帝王切開になっちゃったから、すぐ来れますか?”

という内容の電話だった。
すぐと言ったってここからまだ4、50分かかる。
それを確認すると妹さんは電話を切った。
妙にバタついた雰囲気が私の心にからみついていた。

その頃、
我が子はヘソの緒がからまってしまって心拍が極端に落ちている状態だった。
彼女は意識を失っていた。義母さんが手術の同意にサインをした。
 
めまいを憶えるような悪寒を感じながら急いでクルマを走らせ、
予定通り12時半頃に病院に到着。
手術室が何処かもわからぬまま院内を駆け回りようやくたどり着いた時、
既に我が子は生まれて新生児室に居た。

すぐに新生児室に行くと、看護士さんが我が子を連れて来てくれた。
うれしいのか興奮しているのか感動しているのか、
あんなに自分の心臓が震えているのを感じたのは今までにないことだった。

すぐに写真を撮ろうと思ったけれど、
あんまり急いでクルマから飛び出したものだから、
カメラも何もかもをクルマに置いて来たことに私はようやく気付いた。
 
仕方なく看護士さんにお願いして、
携帯電話のカメラ機能で写真を撮らせてもらった。
 
 
 


唯一の誕生直後の写真。
サイズ変更で大きな写真にするのさえ忘れていた。

 
 
 




翌日、我が子の誕生と共に開始されたイベントは、
初回のイベントで9つのうち4つ予約が入った。
その後も順調すぎるほどに予定通りで、
最後に残ったひとつを私が手がける仕事にした。
 
その最後のひとつは、
翌2005年3月に完成しイベント初日に申込が入った。
     
        
9つの家族が住む新しい街。
今でもよくその前を通ると、
幼稚園バスを待つお母さんを見かけるときもあれば、
行き止まりの道路では子供たちが三輪車を乗り回し、
追いかけっこをして遊んでいる風景を目にすることが出来る。
傍らでは、お母さん同士が談笑している。
それぞれの門柱の脇には、色とりどりの花が咲き誇り、
今の季節ならば鯉のぼりが悠然と泳いでいる。
 
今でも車内から偶然目が合うと、
お互いに笑顔でペコリと会釈をしている。
 
     
我が子誕生と同時に生まれた新しい街。
あの当時私と追いかけっこをしていた3歳の子供は今年小学生だろう。
新生児だったコも今では3歳だ。
  
 
昨日、我が子も3歳になった。
 
これからも、あの街の前を通るたびに私はきっと思い出す。
昨日3歳になったRクンと、時を同じくして生まれたことを。
生まれた日の午前、
浮かれるような神妙なような不思議な気持ちで準備に追われていたことを。
 
 
この仕事をしていて良かった。
あの街の前を通るたび、いつも私はあの日のことを思い出す。
 
  
  
  
 


”2005年3月、最後のひとつの完成した時の写真”





 
<Rクンの誕生した日の記事>

2004.12.23「キミの生まれた日」
http://blog.so-net.ne.jp/nalfalfa/2004-12-23
2005.02.09「キミの生まれた日、その夜」
http://blog.so-net.ne.jp/nalfalfa/2005-02-09



<追記>

Rクンの3歳の誕生日の様子は次回書きます。
あと沖縄旅行最終編もその次に…。
 
 



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コメント 9

りこっち

おめでと~!!
ドラマチックなRくん誕生の日、そして街ですね。
Rくんがいくつになっても誕生の日のことが鮮明によみがえるでしょうね☆
by りこっち (2007-04-24 14:30) 

りうが

ああ、なんでこんな時間の無いときに記事みちゃったんだろ・・・
気の聞いた言葉が出てこないのが悔しい・・・(笑)
魔の二歳児は終焉を迎えたようですね、オメデトウゴザイマス!
っても、Rクンは急に変わるわけではなく、徐々に成長するんだから、区切りなんて関係ないのだろうケド(笑)
真新しい街が、周りの風景になじんで落ち着いてくるように、コドモも成長して環境に馴染み、落ち着いてくるのですよね。
by りうが (2007-04-24 15:49) 

ぷち

Rくん、お誕生日おめでとうございます☆
そして、nalさんもパパさん3周年ですね。
おめでとうございます♪
Rくんも、その街も・・・これからどんどん成長していくんですね。
少しずつでも、ゆっくりでも、確実に。
ますます楽しみです(^-^)
by ぷち (2007-04-24 16:39) 

ccq

おめでとうございます。
微弱陣痛が半日続き,夜明けに我が子は生まれましたが,父はクルマの中で爆睡していたことは秘密です。
by ccq (2007-04-24 21:48) 

gottu329

Rくんおめでとう!
パパとママの愛情をいっぱい受けて、大きく成長してね。
by gottu329 (2007-04-24 22:09) 

斉藤ようこ_nina

Rクン、3回目の誕生日、おめでとう〜♪
nalさん、パパ3周年、おめでとう〜♪
毎日毎日大きくなっていくこと、そのものが喜びですよね。
命ってすごいなあ、と教わってばかりです。
これから「意志を持ったやだやだ3歳児」が炸裂すると思いますが…がんばりましょうね〜、お互い!
by 斉藤ようこ_nina (2007-04-24 22:51) 

JOHN

おめでとうございます!
Rクンと同じように、「成長し変化していく」街。ステキだなぁ。
そんな話をいつかRクンにしてあげる日がくるのでしょうね。
街並みを見ながら。
良い話をありがとうございました♡
by JOHN (2007-04-25 08:40) 

nal

>りこっちさん
ありがとうございます。
予期せぬ事が重なったからか、絶対忘れないカンジですね。
>りうがさん
オトナは大喜びしますけど、Rクンには関係ないってのがその通りなんでしょう。偶然にも次記事はそんなカンジの内容になりましたー。
>ぷちさん
ワタシも3歳だーーーそうだそうですよ!まだ若けーなー(笑)
つーかそりゃまだ修行が足りませんよ、これからも父親業修行の日々ですね。
>ccqさん
バレてるに一票(笑)
by nal (2007-04-25 13:57) 

nal

>hgchさん
愛情のサジ加減って難しいんですよね。
過保護すぎるかなと反省したり突き放したり、ホント日々勉強ですね…。
>ひなぐまさん
どうもワタシに似て(苦笑)ヘ理屈でオトナをこまらせそうな予感が…さらに彼女に似て直球で怒ったりしそうな…。
ま、それも楽しみです♪
>JOHNさん
この仕事の時、「昨日コドモが生まれまして!」ってお客様にアピールしまくって、それで決まった方もきっと有ったんだと思います。そう思うと、ホントに忘れられない街ですっ。
by nal (2007-04-25 13:59) 

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