穏やかな休日を侵す者

澄み切った青空、それは絵に描いたような休日の午後。
その穏やかな時間の中で、私はまどろんでいた。
居間の外には慣れないガーデニングに夢中になる彼女が見える。
腐葉土を入れ耕し、花を植える。
ついでに買ってきちゃったなんて微笑みながら見せてくれた、
ナスにキュウリに大葉にトマトの苗もある。
麦わら帽子をかぶった彼女を居間のガラス越しに見つめながら、
ワタシは寝息を立てながら昼寝している我が子二人の寝顔を見ていた。
　　
しばらくすると家の横の通路にスコップを取りに行ったのだろう。
彼女は視界から消えた。
　
そして次に彼女がワタシの視界に現れた時、
彼女の目は宙をさまよい、なぜか訴えるような目をしていたのだ。
遅い歩みながらその足取りはせわしなく、
そしてすぐに玄関から彼女は入って来た。
　
　
　
「n、nalクン……。」
　
　
　
　
　
　
　
「ハ、ハチ！！！こ、今年もハチが巣を作ってるのぉぉぉぉ……。」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
！！！！！！！！
　
　　

　
　
　
　
のどかな休日の空気は一変した。
ワタシは思わず大声を出しそうになったが、
我が子二人がすぐ傍らで寝息を立てている。

声を殺しながら、ワタシは彼女に言った。
　
　
　

「ど…どこに作ってるの？デカいヤツ？何匹居るの？」
　
　
　
　
　
どうやら西側の出窓の下側らしい。
そして、スコップ等の道具はその下にあるとのこと。
まだ巣は小さい様子で、ハチもそんなに居ないようだ。
　
　
　
　
「ハァ…去年もそうだったけどウチにハチの殺虫剤ないんだよ…。」
「ホームセンター行って買ってくるわ…。」
　
　
　
　
　
「だから巣はあっという間に大きくなるんだってば！」

「それに、コドモが寝てる今しかガーデニングとかも出来ないって。」
　
　
　
　
　
　
あうう…またか……またかヨ……。
　
外に居たの彼女なんだから、自分でやってよ…。
　　　
　
　
　
いつもいつも思うんだけどさぁ…。
こーゆーのオトコの仕事って決めつけるの、オカシイよ……。
　　
　　
男女差別だよ……オレは男女差別反対なんだからさぁ……。
去年はオレが駆除したんだから、今度は彼女の番じゃん……。
　
　
　
　
　
とホントはめちゃめちゃ言いたかったんだけど、
彼女の形相を見るとそうとも言えず、
ワタシはおずおずと立ち上がり物入れから黒光りクン用の殺虫剤を取り出した。
それから玄関収納からコンビニ傘を出そうとしたけれど、
なかったので違う傘を出した。
　
　
　
　
　
「nalクン！そんなイイ傘でやらないでよ…。」
　
「使えなくなっちゃうじゃん！！」
　
　
　
　
…あーーーー……そう……そうだよね……んじゃ武器は何？
　
オレさまの武器は何を使わせて頂けばよろしいんでしょう…か？

あらためて小学校とかの掃除で使いそうな古ホウキがあったのでそれを握りしめ、
ワタシはビビりまくりながら庭を歩いた。

家の角から通路にある出窓をコッソリと凝視するワタシ。
　
お。巣、まだ小さいじゃん……それに、一匹しか居ない！！！

そう、ハチの巣はまだ穴が５、６コしかないくらいの大きさだった。
そして居るのはアシナガバチが一匹。
　
　　
ワタシは慎重に歩を進めた。
敷き詰めた砂利が、ガリッガリッっと音を立てる。
　
　
…見つかりませんように……。
…このホウキは掃除するためだかんね…攻撃しようってんじゃないんだよ…。
…ねっ…おとなしくしててね、アシナガちゃん……。
　　　
　
　
ワタシは出窓から３メートルほどの場所まで近づいた。
去年の時とは違う。

あの時は居間から身を乗り出して「シュー！」した。
身の危険を感じたらすぐに居間に逃げ込める態勢だったのだ。
今回はもろに外だ。ワタシは外の人。
もしこの１匹のアシナガバチが攻めてきたら、
遠い玄関まで逃げ込むことは出来ないだろう。
　
幅１メートルに満たない狭い通路上で、ハチとワタシの二人。
いよいよそのときがやってきた！！！
　　
　　
　　
　　
…シュ、シュウウウウウウウウったらシュシュシュシュシュ！！！！！
　
　
　
　
　
ワタシは巣に向けて全身全霊を込めてシューッ！した。
一発のパンチに己のすべてを賭けるボクサーのようにシューッ！したさ。
　　
　

”ブ…ブブブブゥーーーーーン”
　
　
　
一匹のハチが宙に舞った！！！！
　
　
　
…あ…あわわわ……。
　
　
　
　
　
　
シュシュシュシュシュシューーーっっ！！！
　
　
　
　
　
お願いだからコッチに来ないでと祈りつつ、
ワタシはシュー！をぶちまけた！！！
　
　
　
　
　
　
すると宙に舞ったハチは大空高く飛び立ち、
そして我が家の通りの向かいのおとなりさんの家の二階の辺りに飛んで行った。
ワタシは逃げ出すことなく勇気を振り絞って、そのハチの行方を追った。
　
ブブブブブ……。
　　　
　　
　　　
１匹のハチは、おもむろにおとなりさんの二階の壁に止まった。
７、８メートル離れてはいるが、白い壁にハチの姿がクッキリと見えていた。
　
そのまま数分、ワタシとハチはにらめっこ。
巣を撤去したいんだけどハチににらまれているような気がして、
恐くて巣に近づくことが出来ない。
ずーっと、ずーーーっとハチとにらめっこだ。
　
　
　
何分こう着状態が続いたのだろう。
１５分はお互い譲らずけん制しあっていたに違いない。
ハチは、壁に止まったまま一向に動く気配がない。
ワタシは、額を伝う汗を拭いながら決意した。
　　
　　
…仕方ない…やるか…やるしかないもんな……。
　
　
　
このままで居たって時間が過ぎてゆくばかりだ。
ヤツが動こうとしないならば、ワタシが仕掛けるしかないのだ！
　
　
…ウウウ…アイツ、自分の城を見守ってるんだろうなぁ……。
…落とす瞬間に奇襲をかけてきたりして……。
　　
　
　
…イヤ…イヤすぎる……あーーーーーーーーもう！！！！！
　
　　
　　
　
　　
　　
　　
キンチョーしすぎてオカシクなっちゃうゾ！オレ！！！！！
　
　
　
　
　
こう着状態の緊張感に耐えきれず、ワタシは決意した。
殺虫剤の先をお向かいに居るハチにロックオンしたまま、
ワタシは一歩一歩と歩を進めた。
右手には古びたホウキ。
　　
　
二刀流、宮本武蔵の心境だ！！！
　　
　
　
　　
そぉ……そぉっとね……。
　
　
　
　
　
　
　
　
…………。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
……………………ふぅ…………。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
ぱん！！！

　
　
　
　
　
　
　

た……………退却ーーーーーっっっっっ！！！！！

たたき落とすとワタシはすぐさま退却！！！
慌てて庭を駆け抜けると玄関に飛び込んだ！！！！！
　　　
　
ガチャン！！！
　　
　　
玄関ドアを勢い良く閉めると、
そこにはいつもと変わらない休日の空気があった。
　
　
　
ハ……ハハハハハ………ハアアアアァァァァァァァ……………。
　
　　
　　
帰ってきた。ワタシは無事に帰ってきたんだ！！！
玄関の框に腰掛けると、ワタシは硬直していた右手からホウキを落とした。
　
　　
　　
　　
ハ、ハアアアアアアァァァァァァァァ………。
　
　
　
　
　
　
　　
　
　
　
　
　
　
　

　
「ねえ、どうだった？」
　
　
腰が抜けたようにどっかり腰を落としたワタシの背後から、
いつもと変わらぬテンションの彼女の声。　
　　
　　
　
　

　　
「あーーー落とした…巣は落としたよ…。」
「でも向かいの家にハチのヤツ、まだ止まったままだと思う……。」
「ちょっとコワイね…。」
　　
　
　
　
　　
　
　　
「で、巣は？」
　
　
　
　
　
と単刀直入に聞きながら、
居間に居た彼女はワタシにコンビニの袋を差し出した。
　　
　　
　
　
　
　
　
「巣、コレに入れといてね。」
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　
…………………ひ、人の話聞いてんの………か（脱力…）
　
　
　
　
　
ワタシは仕方なく再び通路に向かった。
そしてハチと必殺の間合いで見つめ合うこと１５分ほど。。

最後は半ば覚悟を決めたようにワタシはノソノソと巣を片付けた。
　
なんとか、我が家の主の命令を果たすことが出来たのであった……。
　
　
　
　
マジ…マジでコワイんだから……。
ホントに！！！

今度は彼女ね……彼女の番！！！
　
　
　
　
　
　
ホントに………。
　
　
　　
　
　
　　
　　
男女差別、断固反対よ！！！！！！！！！
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　

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３、４日後、今度は居間の吐き出し窓の真上の庇にまた巣を作られました。
そのときはハチ用の殺虫剤を買ってきておいたので、
それをシューッ！したところ、
　
一瞬でハチはポトリと落ちました……。
　
ハチにはハチ用…威力がスゲエ…黒光りなアイツ用とは訳が違いました…。

ポトリと落ちたハチくんは、
３、４日前に向かい合ったアイツと同一人物だったのでしょうか。

きっとそうだよね……そうだと思う……。

仕方がないことだけれど、最後はあっけない別れとなりました。
　　
　
合掌！
　　　
　　　
　　　

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■去年のハチとの戦い■

2006.08.11「住まいは自分で守ってみせる」
http://blog.so-net.ne.jp/nalfalfa/2006-08-11
　
　
■2005年、我が家史上最大の戦い■

2005.07.13「昨夜、寝苦しい風の中で」
http://blog.so-net.ne.jp/nalfalfa/2005-07-13

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コメント 19

むし、、

昔平気だったけど、いまはこえぇぇ、、

でも、一線越えると、、うりゃぁぁぁ、、って
ガシガシやっちゃいますよ。。
うはは。

ハチと言えば、バイク乗ってた時、
走行中に、腕に止まられて、、ケツがぴくぴく動いて
自分の腕に張りを突き立てるのを、、走りながら、
結果的に観察してしまった事があります。。
あの衝撃と、「ああ、さされちゃうねぇ」と言う冷静な気持ちの間、、
お伝えしたいですわw
by アキオ (2007-05-24 15:16) 

ウチではワタシの仕事でス。
蜂用は、危険がオヨバヌよう、7ｍも薬液がブッ飛びます♪
田舎暮らしはワタシの方が長いので。
彼女サン、ガーデニングに慣れてくると、虫にも慣れてくるかも♪
来年には駆除してもらえるといいですね～★
親の心、子知らず。
よく眠るぼっちゃんタチnice!
by りうが (2007-05-24 15:41) 

お、おつかれさまでしたー！
うちももし同じ状態になったら夫に頼んでしまいますね。
間違いなく。だって…怖いですもん（笑）！！

記事とは関係ないのですが、黒いところにマウスポインタを動かすと
見えなくなってしまいます…すっごい探しちゃいました(^_^;)
by JOHN (2007-05-24 15:46) 

おつかれさまです！！
男女差別は反対ですが、頼られているうちが華ですよおー？（＾＾）
私なんてもう、「こんななっててー」とかいう現状報告すらしませんからね？
（ちょっとそれも寂しいでしょ？）
何事もないかのように、今度網戸も張り替えちゃうのであった。
・・・・のつもりなのであった。（実際、私にできるのかちょっと不安＾＾；）
by かの (2007-05-24 15:50) 

＞こーゆーのオトコの仕事って決めつけるの、オカシイよ……。
そうだ！そうだ！！(^^)　ハチは苦手なのでできれば避けたい。。。
でも、たのまれたら仕方ないのかな～・・・(・_・；
by (2007-05-24 16:27) 

お疲れさまでした。。。。(^^;)
今、ちょうど自分の一昨年のハチの記事を読んできたばっかりだったので、あまりのタイミングの良さにビックリしてしまいました。
うちの裏も毎年ハチが来ます。ちょうど最近、飛んで来てる姿をよく見るようになっていました。
うちでハチが出れば、nalさんとこでも出るってことですね（笑）。
あのね、ハチって同じところに巣作る傾向にあるみたい。違う個体でも、そうみたい。作りやすい場所ってあるのかもしれないですね。で、一応アドバイスとして…巣を作る前にハチ殺虫剤を前もって吹き付けておくのも、効果ありですよ！
落とした巣があった場所に、残ったスプレーを撒いておいて、来年は今頃より少し前に撒いておくといいですよ。もちろん、何週間かおきに追加もお忘れなく！
ちなみに私も男女差別反対なので、なるべく自分でします（笑）。
by YuriMeine (2007-05-24 21:49) 

ビビリすぎですって・・・
攻撃態勢にはいっていないハチなんて、空手チョップでビシビシやっちゃいましょうよー。
はい、ヒトゴトなんでテキトウです。でも、やる気になったハチはマジで怖いです・・。黒目を狙ってきますからね～ﾋｬｧｧ
by arukakat (2007-05-24 22:49) 

おいらがいつもお昼に散歩する公園にはスズメバチがいます。
たまに遭遇します。。羽根の音が怖いです。。。。
by norinori27 (2007-05-24 23:40) 

て、手に汗にぎる記事でした（笑）
ご苦労様でした！うちも似たようなことが毎年、繰り広げられてますが・・・
こっちのお父さんも、がんばってますよ（笑）
by gottu329 (2007-05-25 08:52) 

＞アキオさん
…蚊ならまだしもハチでそれはちょっと…（恐）
クルマにハチが侵入したことが２、３度ありますが、やっぱ平常心ではいられませんよ（苦笑）
＞りうがさん
あー彼女が植えた花々、上手にいったようでグングン育って花も咲き誇ってるんですが、なんて言ったと思います？
「育ちすぎて花がコワイ…もう触りたくない」そうです（苦笑）
＞JOHNさん
それはVISTAの設定だと思われ。ポインタ設定とかないんですかね？（ソネブロのせいなのかな？）
＞かのんさん
コメントレスしづらい（笑）
ウチはお互いのすべての行動を話しまくってるんで、だいたい何してたかお互いわかってますよ…。今後も、努力します！
by nal (2007-05-25 09:50) 

＞たろうさん
そうでしょ！こーゆー時とか会計の時だけ「男なんだから」みたいなの、オカシイですっ！（逆キレか？）
＞YuriMeineさん
現在ウチの近くの山（っぽいトコ）で区画整理が行われていて宅地開発が進んでるんです。たぶん山に居たハチくんたちが居場所をなくして住処を探してるんだと思います。そーゆーハチくんたちの事情はわかるんですけどね…ウチはカンベンしてほしいです（泣）
＞arukakatさん
どーもね…ハチが来ると身構えちゃいますねー。しかし黒目ですか…カラコンすれば大丈夫ですか？（アホか…）
＞norinoriさん
スズメバチはコッチが攻撃する気なくてもしてくるらしいじゃないですか…コワッ。コワすぎます…。
by nal (2007-05-25 09:53) 

＞hgchさん
ハチと黒光りなアイツと、足が一杯の毒持ちクンがダメなんです…８本足とか粉まき散らすヤツとかは大丈夫なんですけどね…マジで泣きそうなんですよ…。
by nal (2007-05-25 09:54) 

ハチの巣作り、我が家の周りでは毎年どこかでやられます。
男女差別には反対ですが、蜂の巣駆除は普段一切家事をしない旦那の仕事。
「こんなときぐらい家の事してもらわんと、出番が無いよねぇ～」
が決め台詞。（微笑）
駆除をお願いする方としては、男の仕事と決め付けてるわけじゃなく、適材適所のイメージで作業を分担しているだけなんですけど。。。。ダメ？＾＾；
by はるまきママ (2007-05-25 12:54) 

＞はるまきママさん
ま、それぞれのご家庭それぞれだと思うんですが、ウチの場合は適正なんてどっちもどっちなんです！（号泣！）体力に自信あるのは彼女のほうだし…って体力も関係ないし力があるのはワタシでしょうけど、それもハチ駆除に関係ないですもん…。なんで交互にやりたいところです…。が記事にちょっと書いた２回目なんて仕事中に電話かかってきたんですよ。「巣作ってる」って。で、ホームセンターで殺虫剤買って家に帰りましたよ。（つーかそんな用事で家に帰るオレってどうなの、笑）
by nal (2007-05-26 09:25) 

ハチ退治、ご苦労さまでした。
うちは新婚の時に「危ないから！」と
夫が引き受けてくれたので、
それ以来なんとなく…夫の仕事に(^^;
自分で頑張ったことも２度ほどあるけど…、
あまり進んでは頑張りたくないですね。
でも、最近少し、
感謝の気持ちが薄れている気もするので
気をつけます。
一仕事したあとに、
アイスコーヒーを入れてあげるくらいは
しておくように…(^^)
by ちろり (2007-05-28 11:57) 

蜂の巣退治、お疲れ様でした。去年よりずっと手際がよくなってるような（笑）来年も蜂の巣退治はきっとnalさんのお仕事になるような。家、ご近所からも噂を聞きつけてお呼びがかかるかもしれませんよ（爆）
by barbie (2007-05-28 13:44) 

＞ちろりさん
ウチはほぼ命令のように…（泣）
彼女が虫全般ダメダメなんですよ…なんで強制的に…。
感謝も…あるのかないのかどーなんだろーーーー（号泣！）
＞barbieさん
一匹でもこんなにビビってますからね…ダメですよホントに！
でも去年より気持ちは楽でしたね、やっぱ経験が大事？
by nal (2007-05-29 09:55) 

ハチと対峙するときは心眼で戦うのじゃ。
目隠しして修行したじゃろ、あの時を思い出すのじゃよ・・。
ワシがオマエに教えられることはもうナイ。

ってなぜか最後一瞬だけ湾岸ミッドナイト
by arukakat (2007-05-29 22:58) 

＞arukakatさん
どっちかっつーと亀仙人が浮かんじゃったんですけど…ヘンだなワタシ…（苦笑）
by nal (2007-05-31 11:10)